クーラー談義
今年(平成22年)の夏は梅雨明け当初から暑い日が続いている。テレビのニュースでは猛暑日が各地で観測されたと報じ、熱中症に対する注意を促している。
そして当地も例外でなく暑い日が続き、交わす挨拶は「暑いですね」が通り相場となっている。
今どきクーラー(エアコン)のない家は珍しいかもしれないが、現在我が家にクーラーはない。サラリーマン時代あちこち転居を重ねてきたが、クーラーのある家に住んだ経験がないのである。昭和の時代は一般家庭にそれほどクーラーは普及していなかったと思われる。東京、神奈川と転居を重ねていた頃、我が家にクーラーが無いのはそれほど不自然ではない。
平成に入りクーラーが一般化し始めた頃、我が家は岐阜県の神岡に転居した。神岡は標高約500mである。夏の最盛期でも日陰に入ると涼しかった。夜などは窓を開けると寒いほどである。そんな神岡の社宅にクーラーの設備は不要であった。
さて最後に移り住んだこの地と言えば標高310mである。周囲は緑一色。ヒートアイランドとは縁遠い。この地でクーラーが必要か否かは議論の分かれるところである。いちいち確認したわけではないが、周囲の家々ではかなり普及しているものと思われる。
我が家の場合、移り住んだ時点の家屋改造項目の中にクーラーの設置は入っていなかった。それまでクーラーのある生活を経験していないが故に、項目として抜け落ちたのである。その結果が今日まで影響し、クーラー無の生活が続いているわけである。
我々二人の間の会話にクーラー設置の件が出ることも無いではない。今年も夏を迎えようとする時期に話題となった。暑い日一部屋くらい涼める部屋があってもよい、という理由である。そんな折たまたま息子が電話をかけてきた。「クーラー設置が話題に上っている」と持ちかけてみると「田舎でクーラーは不要では」という。
こんな経緯を踏まえつつ結論はともかく、我が家でクーラーは必要なのか家の中の温度実態を調べてみることにした。
測定を行ったのは7月の下旬。群馬県では38℃を超え、島根県の益田市でも35℃以上の猛暑日を観測するという、晴天の暑い日であった。
測定ポイントは次の5個所とした。
屋外:日陰で風通しの良い場所とした。
台所:テレビも置いていて居間も兼ねたような部屋である。屋外に接しているのは窓のある1面のみで、残る5面は隣室があったり二重構造になったりなど、断熱構造になっている。風通しはあまり良くない。西日を受ける。
寝室:窓側、天井、床の3面が1層となっている。風通しはあまり良くない。朝日を受ける方向に位置している。
2階:机など置いている部屋である。天井、窓、壁の3面が外気と接している。風通しは中。西日を受ける。
納屋:ここにも机を置いている。窓、壁、床、天井の4面が一層構造。西日の影響は全くない。風通しは良い。
使用した温度計は棒状温度計や家庭用の寒暖計である。特に寒暖計は誤差が出る可能性があり、後刻5本全ての温度計を同一場所に集めて温度を比較測定し、異常のある3本については測定結果を補正することにした。
窓類の開閉は昼間開く箇所は開き、夜間閉じる場所は閉じる、というように日常の生活振りに一致させた。
測定した結果を下図に示す。
温度変化が一番大きいのは「屋外」で朝の4時、5時に21.2℃を示し、午後の3時に32.7℃の最高温度を示す。この日の場合山の端から太陽が昇ったのが5時45分頃であったから、日の出直前が一番涼しいということになる。
屋内の温度変化をみてみると場所により温度の絶対値は異なるが、屋外より1時間余り遅れた6時ころ最低温度を記録する。最高温度も同様に屋外より2時間程度遅れた午後5時ころ最高温度となる。建物の過熱や冷却に時間がかかる証左である。
個別の変化を見てみよう。
温まりやすく冷めやすい特徴を見せたのは「2階」である。最低と最高の温度差は9℃あった。次に温まりやすく冷めやすい傾向を見せたのは「納屋」である。最低最高の温度差は7.1℃。「納屋」の特筆すべき特徴は全時間を通じ屋内の中では温度が最も低いという点である。我が家の避暑地は「納屋」ということになる。
「台所」と「寝室」はほぼ同じ傾向を示した。絶対温度は約1℃台所のほうが常に高かった。なぜ台所が高いのか。西日の影響、断熱効果、風通しの差、と種々考えられはするが、明確な答えは見つからない。
さて、話を元に戻そう。このような温度状況でクーラーが必要かどうかである。屋内温度は屋外に比べ2℃前後低い。屋外が30℃なら屋内は28℃。クールビズのクーラー設定温度である。屋内にいても「耐えがたい」と感じるのは屋外温度が32℃の頃からであろう。
それでは、屋外温度が32℃を超える日が年間何日あるかである。手元にそんなデータは無い。アメダスの瑞穂ポイントの値を調べてみることにした。今回、測定を行った日の瑞穂ポイントの最高温度は32.3℃であった。八色石の温度と大差ない。代用できそうである。
昨年(平成21年)7月、8月の最高温度を調べてみると、30℃を超える日が7月で5日、8月で14日、32℃を超える日が7月で0日、8月で4日あった。
こうしてみると年によりバラツキはあろうが、クーラーが欲しくてたまらない日数は年間10日以下かもしれない。
我が家の裏庭には、裏の山から山水を太いゴムホースで引いて年中垂れ流しにしている。夏の盛りになると、この水をさらにゴムホースで引いて前庭まで導き、桶にため打水に使用する。動力は使用していないので費用はゼロの水。使用するに遠慮はいらない。朝な夕なに打ち水を行い暑さをしのぐようにしている。
クーラー設置の結論。どうやら設置は中止とし、今年も打ち水が出来るようゴムホースを這わすということになりそうである。