「幾島」とスイスへ

 今年(平成20年)の大河ドラマは「篤姫」という。脚本の良さもあって、近年の中では出色ではあるまいか、毎週欠かさず見る(録画を見るときもあるが)。主人公の篤姫が、江戸城に入るにあたり篤姫を補佐したのが「幾島」という老女である。
 当初、薩摩城のころは篤姫を厳しく教育しニクニクしく感じたこともあるが、江戸城に入ってからは「陰が形に添うごとく(幾島のせりふ)」篤姫に全身全霊で尽くした。そして先の回(8月10日放映)で
 「私が教えることは何一つない。私の務めは終わった」
 といい、篤姫の許を去った。

 今回の主題は篤姫ではない。「幾島」を演じた女優のことである。女優の名は松坂慶子。

 実は、私はこの松坂慶子と一緒にスイスに行ったのである。「そんなバカな」とお思いかも知れないが事実である。

 昭和50年4月22日、羽田空港15時20分発のSWISS AIR SR307便に乗った。この便は南周り、給油のため途中数ヶ所の空港に立ち寄った。

            着        発
  羽田                 15:20
  香港       19:23      20:37 ・・・ 空港ロビーに出る
  バンコック    22:55      24:10 ・・・ 同上
  カラチ       04:45      05:25 ・・・ 機内待機
  アテネ      11:02      11:55 ・・・ 機内待機
  チューリッヒ   14:10(現地時間、06:10)
      (特記以外は日本時間)

 およそ23時間に及ぶ長旅である。この旅を松坂慶子と一緒にした。
 もはや読者諸氏はお気づきであろう。一緒の旅といっても同じ飛行機に乗合わせた、というだけの話しである。
 彼女の席は3列後方。両脇を男性2人に守られての行動に見えた。後方のお手洗いに行くときなど彼女の側を通り抜けたが、勿論声を掛けることなど出来ない相談であり、機内で写真を撮る雰囲気でもなかった。

 チューリッヒ空港でやっと1枚写真を撮った。
 色の白い美人、という記憶が強い。「幾島」は少し小太りの感がするが、当時は細身であった。



 私にとってこのスイス行き、初めての海外であった。勿論仕事である。同行4名の『業務』であったが、その詳細を述べるのは今回の目的でない。

 この『業務』期間中、偶然の出来事としてもう一人著名人に出会っている。
 4月27日最初の日曜日、Apenzellという町に出かけた。Lands gemeinde という祭りが行われるという。その昔スイスは4つの国に分かれており、これらが協力することを願う祭りで、スイスでは結構有名らしい。
 著名人とはノーベル文学賞を受賞したソルジェニーツィンである。同氏が祭りに来ていたことは、ホテルに帰着後ホテルの従業員から聞いた。後日写真を現像したら、スナップ写真の中に偶然にもあの髭のソルジェニーツィン氏が写っていたのである。

 右の白い服、髭の人

 (平成20年)8月3日、ソルジェニーツィン氏がなくなったと報じられた。享年89歳。報道によれば、我々が出会う前年に旧ソ連から国外追放を受けたとあるから、同氏にとれば晴れがましい祭りではなかったかもかも知れない。



 ドラマを見、訃報に接することで遠い昔の思い出を呼び起こされた。古いアルバムを引き出して見る気になった。