草刈機よもやま話

 ホームページの冒頭部分に「鉛筆/紙を草刈機/チェーンソーに持ち替えて」と書いている。確かに、この『里庭』で生活するにおいて草刈機やチェーンソーは欠くことのできない必需品である。

 特に、植物の成長が盛んな5月頃から11月頃までは草刈機の出番が多い。
 現在我が家には草刈機(刈払機)が3台ある。チップソーの刃を取り付けたものが2台、ナイロンひもの刃(ナイロンひもは刃か?)を付けたものが1台である。チップソーの刃を付けた2台は、少し重いが燃費の良いものをKが使い、カーボンシャフトで軽量のものをMが使用している。

 少し余談。人間集まると道具の自慢話をよくする。その最たるものがゴルフと思うが、草刈機においてもその例外ではない。シルバー人材センターの仕事をしていた頃、草刈り作業の仕掛かり前、会員さん同士の話は決まって道具についてである。
 曰く「燃料の使用料が少ない」「軽い」「音が静か」
 といった類である。
 いずれにも該当しない機械の所有者は、やむを得ず「一番古い」と語ったこともあった。

 上記3台以外に、燃料タンクに穴が開きお蔵入りしているものがもう1台ある。この機械、引越し前の神岡時代に購入した。ただし、購入したものの、当時はほとんど使用せずじまいであった。

 その頃の住まいは社宅である。大きくはないが平屋の一軒屋。前を除く3面は木製の塀があり、塀の中は庭、外はおよそ1m余の幅の草地がある。ここは雑草が生い茂り、年に1〜2度は鎌での草刈りとなる。これが結構大変で草刈機を購入したが、結局機械で刈ることはほとんど無かった。
 道路沿いの前面は近所にお住まいの方が、自宅の作業ついでに刈ってくださる時もあり、これが大変有難く、都度1升瓶を提げてお礼に行ったものである。今から思えば左程の作業量ではないが、当時は大いに感謝した。

 この地への引越し当初活躍したのが、先の神岡で購入した機械である。母屋周辺、今で言う欅台や桜台をこの草刈機で“開墾”した。

 こんな作業をしているときのことである。向かいに住むMさんが
 「様子を見に来た」とヒョイと訪ねてこられた。
 「どんな刃を使っている?」との問いに、当時使用していた8枚刃の磨耗した刃を見せると
 「これでは切れない。切れる刃を持ってきてあげよう」と家まで帰り、研ぎなおした刃を持ってきてくださった。
 付け替えて刈ってみると“目からウロコ”ほどよく切れる。
 当時私は、草刈機の刃は研磨して使用することを知らなかったのである。グラインダーで刃は研磨するのだと教わり、私も廉価なグラインダーを買い求めた。1〜2年は8枚刃を使用した記憶がある。

 折りしも、シルバー人材センターでの勤務が始まった。センターで請ける作業の中で、草刈作業は圧倒的に多い。その現場で会員さんが使用する草刈機の刃を見ると、8枚刃とは異なる仕様のものを大半の人が使っている。
 聞くとチップソーというらしい。セラミックス製の超硬チップを鋼の先端に埋め込んだもので、刃の磨耗は8枚刃に比し圧倒的に少ない。ただし、石などに刃が当たるとチップが飛び破損する。

 私も購入し使用してみた。8枚刃に比べ切れ味は何時までも持続する。チップが飛びさえしなければ、“半永久的”な寿命に思われた。研磨の必要性など微塵も感じなかった。

 チップソーの研磨効果を知ることになるのは、偶然の出来事からである。
 Mの実家に草刈応援に行った時のこと、Mの母が
 「Kさんの刃は切れにくい音をしているから、研いであげたら・・・」とMの父に促した。
 義父は平成15年の暮れに没している。当時の体調は、草刈り作業は出来ないものの研磨作業の体力は十分保持していたから、この出来事の時期は、おそらく平成15年の初夏のころであろう。
 義父の研磨した刃に取り替えてみると、切れ味がまるで異なった。チップソーは研磨しなくても切れ味は落ちないと思っていた私には、またしても“目からウロコ”であった。

 それ以降、チップソーも研磨して使用するようになった。ただし、チップソーの研磨は難しい。チップそのものが硬いため研磨材はさらに硬いダイヤモンド砥石になる。この砥石をハンドグラインダーに取り付け研磨する。グラインダーを持ち直接チップソーを研磨する人もいると聞くが、私は簡易な治具を購入し使用している。この治具、“ケンマ台王”という。名前は凄いが、グラインダーを固定する部分とソーを乗せスライドする部分から成り立った簡易な治具で、4千円前後と記憶する。チップを砥石に当てる動作は手作業となる。グラインダーの保持角度を変えることで、如何様な角度でもチップ先端を砥石に当てることが出来る。
 チップソー研磨機と称して刃先を1ヶづつ自動送りする治具も販売されており、借りて使用してみたが、砥石の充て角度に制限があるなど思わしくない点が多かった。


(上のハンドグラインダーは別売り)













 試行錯誤の結果であるが、現在は“ケンマ台王”を用いた「上田流」の研磨ノウハウが確立でき、研磨後の切れ味はかなりよくなっている。

 ところで、この草刈機(刈払機)は誰(どこの国)の発明だろうと、ふと思った。
 このような疑問に対しては、インターネットが最も素早い対応を示してくれる。早速「刈払機 歴史」と入力し検索してみた。ところが、目ぼしい検索結果は1件もない。一方、チェーンソーについて同様な試みを行うと、20世紀初頭頃欧米で発明されたという結果が何件も出る。
 それでは、いったい何処なのだろう。私は、日本ではないかと推定する。第一、この草刈機を使用している画像で、日本以外のものを見たことがない。さらに、モーターの回転軸と刃の回転軸の角度を傘歯車で変えるなど、その設計思想が精緻でいかにも日本的であるのが第2の理由である。そして第3の理由は次による。欧米では草刈機を使用するほど植物が生長しない、そして放牧主体の農業である。反面、日本は米作が主体の農業、しかも植物の繁殖は極めて旺盛である。必要は発明の母、草刈機(刈払機)の発明に至ったのであろう。
 産業史的にみれば、田植機やコンバインは欧米で発明された機械の物真似。この草刈機こそ日本の独創性に基づくもので、日本農業を象徴する産業機械と言ってよいのかもしれない。

 となると、私の場合チェーンソー/草刈機に持ち替えたが、欧米のサラリーマンはリタイア後持ち替えるのはチェーンソーのみということになる。